この物語。ぜひ1から順に読んで下さい。
ギアボックスの中身は全てをアルコールで拭いたので、少し
グリスを足しておかないといけないだろう。こんな模型つくりからしばらく離れていたので、工具箱を探しても、机の中を探しても出てこない。グリスを買いに行こうと思い立った。
ところが、昔から行っていた模型屋はすでに
店をたたんでいる。他に模型屋さんってあったっけ?。いろいろ考えるが思いつかない。100円ショップって、模型用のグリスを売ってるのかなあ。ネットで探せば簡単にあるだろうが、中身と郵送料とあまり変わらない物を郵送で買うのは気に入らない。
ふと、もう1箇所、模型屋さんがあることを思い出した。入ったことはないが、確かにあったはず。行ってみるとやっていた。中に入ると、あまり品物が動いていない雰囲気がある。ガラスケースの中の品物も、長くここにあって、陽にやけた感じがする。模型屋さんって、もう流行らないんだろうな。子どもたちは、大きなショッピングモールや量販店で買い物をする。
そもそもプラモデルそのものがどのくらい売れているのだろう。
「模型用のグリスありますか」
「さあー、そういうものがあるのかどうか」
見るからに、模型好きだとか、模型に詳しいだとかいうこととは無縁な感じバリバリの女性。家族のどなたかがされていた模型屋を引き継いで、品物があるので少しでも売れればという感じ。新しい仕入れはしていないのかもしれない。
ガラスケースをのぞくと、どうやらグリスらしい物があるが、量が多い。こんなにはいらないんだよなあ。どうしようかなあ。 と迷っていると壁にぶら下がっている袋が目に入った。袋の底に、確かにグリスの小さなチューブが入っている。これこれ。これで十分。それは、ミニ四駆の改造用部品のセットだった。色んな種類がある。しかし、このパーツ、買っても今後使うことがあるんだろうか。しかし、あの大きなグリスが無駄になるより出費は少ない。これにしよう。で、使う予定もないミニ四駆パーツセットを一袋買った。
書斎に戻り、ギアボックスにほんのちょっとグリスをつけ、電池を入れてスイッチオン。なんだか
回転がスムーズになった気がする。いやあ、スムーズになってないと困るんだよね。
車輪を車軸にとりつけ、ボディにギアボックスを固定。ボディと車軸の間もグリスつけとこう。空間がありそうで、関係ないかも。まあいいか。「ななはっけ」先頭にバランス用のおもりが、シリコンのようなものでとりつけてあり、それがはずれかけていたので、これもエポキシで固定。とうとう「ななはっけ」が完成した。
スタッフを集め、診察室の床を走らせた。「わあ!」と歓声。うれしいなあ。
そして、このななはっけのオーナー、二歳半の男の子のお母さんに電話して、医院にきてもらった。待つことしばし。オーナーがやってきた。修理工としてはオーナーの反応が気になるところ。
待合室で待っている男の子に向かって、ななはっけを走らせた。そのときの彼のうれしそうだったこと。
満面の笑顔。そして、
ななはっけを抱きしめ、絶対に手から離さなかった。
お母さんからお菓子をいただいた。遠慮しようとすると「この子が持って行くって言うんです。このお菓子もこの子が選びました。」ほほう、この子は二歳半にして、すでに菓子折持って行くという礼儀を身につけている。まあお母さんの心配りだろうが。
男の子は、大事そうに大事そうにななはっけを抱っこして医院を出て行った。
なんどもばいばいをしてくれた。
ひっぱってきたけれど、これでめでたしめでたしの話である。ななはっけはいろんな思いを残して僕を通り過ぎていった。
スタッフは、「医院に、おもちゃもなおします って書きましょうか」と言う。しかし、最近のおもちゃは、電子回路が入っていたり、部分的になおす前提になっていなかったり、複雑なことが多い。おもちゃなおします なんて怖くて書けたものではない。
最後に心配事がちょっとだけ残った
穴が三角形のねじ用のドライバーは、今後出番があるのだろうか
いつでも貸しまっせ
ミニ四駆のパーツは使う日が来るのだろうか
そう思いながら、まただれかおもちゃ壊れたと言ってこないかなあとこっそり心待ちにしている僕である。
ご愛読、有り難うございました。